韓国ドラマ「おつかれさま」――済州島に息づく伝統の知恵 ~迷信・言い伝えが教える島の精神~

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韓国ドラマ『おつかれさま』(原題「폭싹 속았수다」)は、1950年代〜現代までの長い時代を背景に、海女の娘オ・エスンと魚屋の息子ヤン・グァンシクの人生や愛の軌跡を美しい済州島の風景と共に描いています。
済州島は、その美しい自然や独特の風土だけでなく、長い歴史の中で育まれた数多くの迷信や言い伝えが今なお息づく場所です。海に囲まれた火山島ならではの厳しい環境の中で、人々は自然の力や神々への畏敬の念を通じ、生活の安寧を祈るために独自の信仰や儀式を築いてきました。
今回は、ドラマでも描かれている済州島に伝わる代表的な迷信・言い伝えをいくつか取り上げ、その背景や意味、そして現代の済州島民や観光客にどのように受け継がれているのかを考察します。

海女と写真撮影の禁忌

済州島の海女(ヘニョ)は、代々海に潜り、豊かな海の恵みを掴み取る伝統的な職業として知られています。彼女たちの間では「写真を撮られると早く死ぬ」という迷信が根強く伝えられていることがあります。

はな
はな

ドラマでもエスンの母が遺影を撮影する際に「海女は写真を撮らない」と言ってたね。

この言い伝えの背景には、写真という媒体が「魂を奪う」という古来の信仰や、外部からの注目に対してプライバシーを守るという考え方が関係していると考えられます。過酷な労働環境の中で生計を立ててきた海女たちは、自らの姿が不必要に晒されることを忌避し、家族や共同体の平穏を守ろうとする意識があったのかもしれません。現代では、観光客が撮影に夢中になるシーンも目にしますが、地元の海女たちは依然として写真撮影には敏感な態度を示すことが多いと言われています。


女が船に乗ると戻ってこない

済州島では、さらに「女が船に乗ると戻ってこない」という迷信も存在します。この言い伝えは、海や船が持つ神秘的で時に危険な側面を象徴していると解釈されます。

こん
こん

ドラマでエスンが船に乗るのをためらう場面が描かれていたよね。
命に関わる迷信は、気になってしまうものだよね。

歴史的に、海は命を育む一方で奪う存在とされ、船に乗るという行為は運命を左右する重大な出来事と考えられていました。特に、女性が船に乗ると海の神々や霊に心を奪われ、家族や故郷へ帰ることができなくなるという恐れが語られたのです。現代の合理的な価値観からは理解しがたい部分もありますが、これは済州島独自の自然観や信仰に根ざした伝統であり、女性の役割や社会的立場とも密接に結びついています。


結婚と銀のさじ

銀のさじは、古来より幸運の象徴や家庭の繁栄を願う縁起物とされ、結婚にまつわる迷信としても語られることがあります。

はな
はな

ドラマでエスンが結婚するときに「銀のさじも持ってこない」とグァンシクの母に文句を言われていたね。嫁姑問題ってどこの国でも厳しいね。

一説によれば、銀のさじを持っていると、家族の繁栄や子孫の多さが保証されるというポジティブな意味合いがある一方、過剰に重んじすぎると、運気を阻害するという否定的な側面もあるとされます。結婚式の際に、銀のさじを伝統的な家宝として贈ることがある反面、迷信を気にして避けるケースもあり、家族ごとにその解釈は異なります。こうした迷信は、古くからの伝統や家庭の価値観が反映されたものであり、現代では単なる文化的背景の一端として受け継がれていると言えるでしょう。


新しい船に対する「クッ」儀式

済州島では、船は生活や交易の重要な手段として古くから利用されてきました。新しい船が完成し、初めて海に出る際に行われる儀式「クッ(굿)」は、船の安全航行と豊漁、そして乗組員の健康を祈願するための大切な行事です。
この「クッ」儀式は、巫女(무당)が中心となり、次のような構成で執り行われます。

  • 請神(せいしん): 神々や精霊を招き、船に宿らせるための呪文や祈祷が唱えられます。
  • 饗宴(きょうえん): 神々に供物や食事を捧げ、神聖な祝祭を共にします。
  • 祈願(きがん): 乗組員の無事、船の安全、豊漁など具体的な願いを祈ります。
  • 娯神(ごしん): 音楽や踊りを通じて、神々を喜ばせる要素が取り入れられます。
  • 送神(そうしん): 儀式の締めくくりとして、招いた神々を元の世界へ送り返す儀式が行われます。

これにより、新船は単なる物質的な道具ではなく、神聖な加護のもとで運行される存在として、共同体全体の結束や伝統の継承とともに祝福されるのです。

こん
こん

ドラマでグァンシクの新しい船でも儀式が行われていたね。
急にグァンシクの家族と仲直りしていて驚いたよ。


その他の済州島の迷信と言い伝え

済州島では、上記以外にも以下のような迷信や言い伝えが存在します。

  • 引っ越しのタイミング: 済州島には「新旧間」と呼ばれる、年に一度だけ決められた引っ越し期間があり、これを破ると災いが降りかかると信じられています。これは、神々への報告や村の共同体としての絆を確認するための伝統儀式と連動しているとされます。
  • ドルハルバンに対する戒律: 済州島の守護神として有名なドルハルバンは、神聖な存在とされ、傷つけたり無断で持ち出すことは厳禁とされています。不敬な行動や、写真撮影の際の過剰な接近も控えるべきとされています。
  • その他、家祭や村祭における禁忌: 村全体で行われる儀式の際、参加者の服装や行動、供物の取り扱いに厳しいルールがあり、これを破ると家族や村全体に不運が訪れるという言い伝えが伝わっています。
はな
はな

まだ8話までしか公開されていないけど、これからも色々な済州の文化を観ることができそうだね。


済州島の迷信・言い伝えが伝えるもの

これらの迷信や言い伝えは、現代の科学的合理主義とは一線を画しているものの、済州島民が長い年月をかけて築き上げた生活知恵と精神文化の一端を垣間見ることができます。

  • 自然との共生: 済州島の厳しい自然環境の中で、人々は自然の力を畏れ、神々への敬意を表すことで、日々の生活を守ってきました。
  • 共同体の絆: 儀式や迷信は、個人だけでなく村全体や家族の結束を強める役割を果たし、災厄から身を守るための精神的支柱となっています。
  • 伝統の継承: これらの言い伝えは、現代においても地域の文化やアイデンティティを形成する重要な要素として、地元の祭りや儀式を通じて受け継がれています。

終わりに

済州島に根付く迷信や言い伝えは、単なる「昔話」ではなく、過酷な自然環境や歴史的背景の中で、人々が生き抜くために形成された貴重な文化遺産です。海女の写真撮影を禁じる言い伝えや、女性が船に乗ると戻らなくなるという迷信、銀のさじや引っ越しのタイミングに関する伝承、さらには新船に対する「クッ」儀式など、これらは済州島民が自然と共生し、共同体の安全と繁栄を祈るために培ってきた知恵の結晶なのです。

済州島の伝統と迷信に思いを馳せながら、もう一度、ドラマを見てみるのはいかがでしょうか。

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